「GoogleがGmailの内容を外部企業に読ませている」という記事について

Forbes Japanに以下のような記事が掲載された。

forbesjapan.com

これについて記事を読んだ人たちのTwitter等での反応を見ていたのだけれど、その反応にちょっと違和感を感じたので、今回少し書いている。

まず最初の反応として、NewsPicksでのコメントを見てみる。

newspicks.com

「メール内容を読ませていいと同意した覚えはない」というコメントが多く、そこから転じて「Gmailは守秘が必要な用途で使うべきでない」「無料のサービスを使うということはこういうことなんだ」のような意見も見られる。

一方、はてブでの反応は、流石に技術者が多いコミュニティということもあり、ちょっと調子は異なっている

b.hatena.ne.jp

何事かと思ったらOAuthのことだったw - gogatsu26のコメント / はてなブックマーク

OAuth2で同意とってるなら普通じゃね?それをユーザーに同意なく共有してるとかなら問題だけど、それもGoogleには審査/監査以外には問題ないような。デベロッパーコンソールなんて無審査だろって話なら同意するけど - tinsep19のコメント / はてなブックマーク

僕自身は、こちらのどの認識についてもちょっと本来の記事内容の理解から外れていると思っているので、少し整理したい。

論点1: Googleはメール内容をどのような「同意」で第三者へ提供していたのか?

Forbesの記事では少し「同意」というものが何を指しているのか曖昧になっている。そのため、この同意を、Gmailサービス利用時の利用規約への同意、と理解してしまった人たちが、最初の反応をしていると思われる。

もちろん「一部のGmail関連アプリを開発するデベロッパーらが、ユーザーの同意を得た上で、ユーザーのメールの内容を閲覧可能な状態になっている」との記述があるので、おそらくOAuth(あるいはそれに類するサービス間での承認の仕組み)のことであろうと想像できるのだが、そのリテラシがあるかどうかで反応が異なるのは致し方ないかもしれない。

実際にこれがOAuthのことを指していることは、Forbesが参照しているThe Vergeの記事を見れば明らかだろう。

www.theverge.com

なおOAuthの仕組みのとおり、これは完全にユーザ側がオプトインで利用するものであり、サービスそのものの利用の際にチェックする利用規約への同意(に含まれる第三者へのデータ提供)とは全く異なる話である。よって、このような理解を前提にGoogleを批判するのはお門違いだろう。

論点2: ユーザはどのような内容について同意をしたのか?

では今回の記事は何を問題だと言っているのか。端的に言って、そのオプトインの同意した内容について、ユーザがおそらく期待していたものと、データ利用者である3rdパーティベンダーがやっていることと、かなり乖離があるという主張なのだと思う。

Forbesの記事が参照しているThe Vergeの記事では、メール内容がGoogleから提供されていたアプリベンダーとしてReturnPathEdison が上がっている(元は確か火種となったWSJの記事で上がっていた気がしたが、現在有料記事扱いとなっており引用からはずした)。

最初のReturnPathは、企業用のメールマーケティングを最適化するサービスを行っている会社のようである。その性質上INBOX内のメール本文や宛先・その他メタデータをスキャンして読むということは、あらかじめ想定される範囲だと思われる(企業内の1ユーザがそのようなアクセスを他企業に渡す承認をしていいかどうかの観点はあるが、まあそれはおいておく)。そのため、ユーザがアクセス許可したデータの内容についてはおそらく齟齬はないだろう。

もうひとつのEdisonは、iOS/Androidなどスマホ上で動くメールアプリを提供している会社だ。メーラーであるというからには、メール本文及び付随するメタデータが読めるのはそれは当たり前である。

ではその記事は何が問題だと言っていたのか。それは「human engineers」が(機械に学習させるために)ユーザのメール内容を読めることがあった、という点についてである。

The WSJ talked to both companies, which said they had human engineers view hundreds to thousands of email messages in order to train machine algorithms to handle the data.

つまり、ユーザはプログラムに読まれることは同意時に想定していただろうが、それを(3rdパーティベンダーの中の)人間に見られることについては想定してないだろう、ということだ。これについてはいろいろ見解は分かれるだろうが、少なくとも元々のWSJの記事はそこを問題点として上げていたことをちゃんと認識しておきたい。

論点3: Googleはプラットフォーマーとして何をすべきなのか?

データを人間が可読であることの同意云々については、正直人間と機械の違いに何の意味があるのという立場もあろうし、明らかにユーザの期待と違うとする見解もわからなくない。ユーザと3rdパーティベンダー間の問題でありプラットフォームに責任はないという見方もあり得るだろうし、そもそもそのような問題を未然に防ぐようにプラットフォームが対処するべき、という意見も一定の説得力がある。

その中でも、ただ一点これだけは言えることがある。そもそも技術的に、データとして機械(プログラム)がアクセスできるものを、人間に対してはアクセスできないようにプラットフォーム側で制限することはできない、ということである。

つまり、どんなに工夫しても、プログラムにデータを読み込ませることができた時点で、人間はどうにかしてそのデータを読めてしまうのが普通だということだ。 なので、これについてもしプラットフォームで対処すべきであるとしたら、技術以外の範疇で行うしかない。

例えばアプリケーションの審査にヒアリングシートなど添付を義務付け、データアクセスポリシーとして同内容をユーザにも明示することを義務付けるなどだろうか。 もっとガチガチにしたければ、ヒアリング内容と異なることが疑われるような場合やインシデント発生時には、監査の義務を設けてもいいかもしれない。

いずれにせよ、それがスマートな方法かというと程遠い話である。ただユーザがプラットフォームにそのレベルを求めるのであれば、対処しなければいけないことになるだろう。

あるいはそのようなデータに対してはAPIとしてのデータ提供を一切やめるかだけれど、そのような世界はクライアントもすべてGoogle Gmailだけしか使えない世界か、あるいはユーザ名/パスワードを無造作に他者に預ける世界である。後退感は否めない。

まとめ

  1. 今回の記事をGmailサービスの利用規約への同意の話と勘違いしてるのはおかしい
  2. ただのOAuthの話だよね、といって記事を切り捨てるのも間違いで、もう少し突っ込んだ問題提起である
  3. プラットフォームが技術的にできること/できないことをまず踏まえた上で、今後どういう世界をのぞむのかを考えるべき局面かもしれない